藝術学関連学会連合
第4回公開シンポジウム

「藝術とインタラクティビティ」


主催:
藝術学関連学会連合、日本学術会議哲学委員会・藝術と文化環境分科会
意匠学会/建築史学会/国際浮世絵学会/東北藝術文化学会/東洋音楽学会/日本映像学会/日本演劇学会/日本音楽学会/日本デザイン学会/日本民俗音楽学会/比較舞踊学会/美学会/美術科教育学会/美術史学会/舞踊学会/広島芸術学会/服飾美学会

共催:
京都国立近代美術館


[日時]2009年6月13日(土)13:30-17:00

[場所]京都国立近代美術館一階講堂

[アクセス]
・地下鉄東西線「東山」より東北に徒歩5分
・市バス「東山仁王門」より東に徒歩5分(平安神宮大鳥居の西側の建物)

※どなたでも無料で聴講できます


[プログラム]

◆開会の辞
佐々木 健一(藝術学関連学会連合会長)

◆趣旨説明+司会(シンポジウムオーガナイザー)
為ヶ谷 秀一(日本映像学会)、兼子 正勝(日本映像学会)

◆講演
原島 博(東京大学名誉教授、女子美術大学客員教授)
「藝術とインタラクティビティ――技術の立場から考える――」


◆パネルディスカッション(パネリスト・発表題目)
山口 良臣(意匠学会)「装置あるいは仕掛けとしての芸術作品」
貫 成人 (舞踊学会)「インタラクティビティと舞踊」
仲町 啓子(美術史学会)「絵画の制作と受容−近代以前の源氏物語絵を中心に−」
吉岡 洋 (美学会)「インタラクションと時間」

◆閉会の辞
岩城 見一(京都国立近代美術館・館長)

[問い合わせ]
電気通信大学兼子研究室 phone: 042-443-5536
mail: kaneko@hc.uec.ac.jp
(スパムメール防止のため、全角文字で「@」を表示しています。
お手数おかけしますが、半角の「@」に置き換えてください。








デザイン:佐藤暁子
(女子美術大学)



佐々木会長による開会の辞


パネルディスカッション


岩城館長による閉会の辞


趣旨

写真  1980年代からのコンピュータゲーム、1990年代以後のインターネットなど、近年メディアと藝術を巡る環境は「インタラクティブ」「相互作用的」な性格を強めている。
 インタラクティビティとは、一般に二つ以上のものが相互に作用しあうことをいい、とくに近年では作品、制作物に関して、観客(ユーザー)が対象物に働きかけることで対象物(内容、処理)が変わるような場合に、インタラクティブであると言われる。
 古典的な藝術における「鑑賞行為」は、どちらかというと「受動的」な傾向が強い(美術館における鑑賞、劇場における鑑賞)。また古典藝術学そのものも、「Contemplation」の考えにみられるように「一方向的」な鑑賞・観照を重視しているように思われる。通常の理解では映画、TVあたりまでのメディアは非インタラクティブで、それ以降のコンピュータ、webなどがインタラクティブであるとされる。しかし「本当にそうか」というのがわれわれの問いである。歌舞伎などの古典舞台藝術は観客と演技者が相互に反応しあうインタラクティブな空間を作っていたのではないか? 映画という一見非インタラクティブなメディアもインタラクティビティの観点から理論化することができるのではないか? そもそもアリストテレスやカント、ヘーゲルの観点からインタラクティビティを考えたらどうなるか?そしてこうした学術的な問いなおしを、あたらしい制作へのステップとして活用することはできないか?
 藝術学関連諸学会において今日「インタラクティビティ」を考えることは、したがって二重の意義を持っている。一つには、ギリシア哲学以来美と藝術について思考を重ねてきた藝術学の側から、近年のインタラクティブな藝術ないしアミューズメントを解釈し理論化することが、十分大きな課題であること。もう一つには、現代のインタラクティブメディアの側から、歴史的な知見を参照し理論的なベースを確認することが、あたらしい創造へのバネになる可能性があること。このような観点から、本シンポジウムでは「インタラクティビティ」について、学問的なものと実践的なもの、古典的なものと先端的なもののあいだの、文字通り「双方向的な」議論をめざす。

シンポジウムオーガナイザー 為ヶ谷秀一(日本映像学会)、兼子正勝(日本映像学会)



報告

写真  芸術学関連学会連合第4回シンポジウム「藝術とインタラクティビティ」について、コーディネーター+司会の立場で簡単にご報告をいたします。
 同シンポジウムは、別掲プログラムのように、2009年6月13日(土)13:30から京都国立近代美術館講堂で開催され、学生、研究者から一般の方まで約80人のご参加をいただきました。発表にひきつづきコーディネーターも加わってディスカッションをおこないましたが、会場との質疑応答も活発で、閉会を20分ほどのばしてディスカッションを続けました。
 原島博先生からは、インタラクティブメディアの技術とコンテンツ、運用のすべてに深く関わってさまざまな重要プロジェクトを運営してこられたお立場から、この分野の現状と展望についてご講演をいただきました。とくにインタラクティブアートについて、それが「美術館を飛び出す」方向性を持つこと、鑑賞者との相互作用性を強める方向の延長としてコミュニティにおける展開があることなど、興味深いご指摘をいただきました。
 山口先生からはインタラクティブなアートの実作者のお立場から、「参加性」があまりにも強いゲームのような場合には芸術から離れるのではないかなど、インタラクティブなものの「参加性」について問題提起がなされました。貫先生からは、舞踊芸術におけるインタラクティブ性を通覧するようにして、バレーのように作品の自立性が強く観客の参加度が低い場合から、現代舞踊のある種のもののように観客の参加を強く要請するものまで、全体的な見取り図を非常に明確に描いていただきました。仲町先生は、江戸期の源氏物語絵における「見立て」や「やつし」を例に取り、近代以前の作品制作において、制作者−受容者のあいだでイメージが流通し、変形され、再生産される相互参画的な関係があったことを浮き彫りにしてくださり、司会者の勝手な感想として「間テクスト性」ならぬ「間イメージ性」の事例を目の当たりにし、それが現代のコミケなどのイメージ共有・二次創作につながっているように思えて知的興奮を覚えました。最後に吉岡先生からは、インタラクティビティという問題設定がテクノロジーに主導されたもので、コンピュータメディア以前には逆にすべてのメディアがインタラクティブであった(だからインタラクティブという問題は存在しなかった)、またコンピュータメディアにおいて重要なのはインタラクティビティそのものというよりはむしろその「即時性」であり、「即時性」が人間に対して抑圧的に働いていることが問題であると、重要な問題提起をいただきました。
 このシンポジウムは、藝術学に関連する諸学会の研究者がそれぞれ違った知的バックボーンを持ちながらおこなっている研究を、一つのテーマに関して持ち寄り討議するもので、もとより「結論」を出すことは想定していません。それよりはむしろ、違った知見をつきあわせることで、あいだに第三項のようなものが浮かび上がったり、知見全体を見渡す立場からメタレベルの考察がはじまったりすることが期待されました。その意味で今回のシンポジウムでは、発表の先生方に非常に充実した内容のご発表をいただいただき、また発表後のディスカッションでも、インタラクティビティの強弱(参加度の強弱)と芸術性の関連や、コンピュータ技術に依存しない次元で「インタラクティビティ」を問うことの可能性や、参加度の強弱・即時性の束縛の有無などを勘案した「いいインタラクションと悪いインタラクション」を区別する可能性などが議論され、メタレベルの検討の、少なくとも萌芽のようなものをいくつか浮かび上がらせることができたかもしれません。

兼子正勝(日本映像学会)




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